花のピンどめ


この日のこの子はというと、
就職活動にやられて、すっかりどんよりなテンションだった。
私もそこまで元気ではなかった。


思い立ったら即行動、と、
いつもの「いっちゃいましょう!精神」で
町田の版画美術館周辺をふらふらと歩いた。




――――――




2人で散歩をすると、いつも、歌を歌う。

坂道を登りながら

あーのー、さーかーみちーはー

と歌う。


今日は先輩方の卒業式だったのか!と、ツイッターで知れば

きっーと いつの日か 笑い話に なるのかなー あのーころはー青臭かったなんてねー

と。


もうすぐ桜も満開ね、とぼんやり呟けば

桜の季節、すーぎたらー、とーおくの町にゆーくのかい

と、
とにかく話題に合わせて、場に合わせて、ベタな歌を歌う。






私はそうゆうことができる友人が、とても好きで、
そうゆう時間を いとおしい と、思う。



あの歌の続きみたいに、
なんでもない毎日が本当は記念日だったと、いつの日か思うんだろう、と。
いつの日にか、あの頃は青臭かったと笑うのだろう、と卒業もしていないのに、
むしろ先輩方がこの日卒業していったのに、そう思った。
むしろむしろ、就職すら決まっていないのに、そう思ってしまった。



―――――――




私の記憶力がすごいのでしょうか?


一枚の写真を撮るごとに、思い出が残っていく。
写真、って意味でなく、
自分の頭に、感覚に、心に、いろんなところに。

一枚の写真を見るごとに、
するすると、その日のエピソードがつながって、うかんで、
「そういやさぁ、あの日…(笑)」と
くだらない話の内容や、しょうもないことをした時のことを思い出す。




―――――――



まだまだ寒いのに、アイス食べたい、と急に言いだして、
えー、なんて言いながら買って、食べて歩いたこと。

この森のどんぐりの香り。

3月、にマーチを歌って
こんなことは~ 言いたくないのさ~ と
就活にため息ついたこと。

ちょっとした塀をふらふらと歩いて、落ちかけて、わ~!と驚いてたこと。笑っていたこと。

うちら2人になると、だいたいこうやって歌うたうけどなんで?なんなんだろうね?
と笑ったこと。

スーツ姿の友人にばったり会って、さらにどんよりしたこと。

行きつけのイタリアンが混んでいて、代わりドーナツを食べに行ったこと。

無駄に落ち込んで食欲が減っているのに対して、私は3つもモリモリとやけ食いしたこと。

あの日の帰り道に、なんとなくつぶやいたことを、ふぁぼられて、ちょっと嬉しかったこと。



――――――




前に「シャッターを切る理由」なんて話を
あのかっこいいお兄さんがお話してくれましたけども。

どんだけ撮ってみても、
どんだけ、ちょっと表現っぽいことに挑戦してみても、

結局、
「本当にボタンを押したくなる場面」は変わらないし、
理由も変わんない。


頑固なんだな。きっと。

でもって、いつか、すごく写真を頑張ってる人に言われたけれど、
視野がとても狭いんだろうな。
あーこんなんでごめんなさい。

だから、
心から撮りたいと思って撮った写真は、
一生こんな感じの、
誰にでも撮れる、なーんてことのない写真なのだろう。




でも、その分、たくさんの思い出をおぼえているから。

元気がなかった時も、めちゃくちゃ楽しかった時も、
すごく鮮明に覚えているから。
きっと、私に近しい誰かの、 生けるアルバム のような存在くらいにはなれるよ。

それで十分幸せです。


しゃべって、笑って、時々いじられる、歩くアルバムなんて、そうそういませんし、
多分、希少価値だろうよ。



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とにかくこの日は、ため息が多かった。

けれども、
私の作ったお粗末な花のピンどめを髪につけてくれている姿を見る度、嬉しかったのよ。
にやにやしたのよ。
何度も、何度も、大人しく止まってくれる瞬間を探したのよ。


それは、私だけが知ってるこの日の思い出。